CLT REPORT BLOG
有楽町のCLT建築群が示す都市木造の現在地と国産材ビジネスの次なる焦点
ニュースの概要
有楽町ビル跡地で、木造建築を中心とする「YURAKUCHO PARK」の工事が始まりました。計画では、国産スギ材を使ったCLT(直交集成板)を、床や壁だけでなく柱や梁に近い線状の部材としても用います。CLTの使用量は約480立方メートルに及び、防火地域で100平方メートルを超えるCLTの表面を見せる建築を実現する点も特徴です。大手町・丸の内・有楽町では、まとまった規模のCLT建築群は初めてとされます。単独の実験施設ではなく、来街者が日常的に使う都心の空間として成立するかが、都市木造の普及を占う試金石になります。
引用元: 有楽町ビル跡地で「YURAKUCHO PARK」着工、都心のCLT活用を前面に打ち出す(www.watch)
分析・見解
有楽町の計画は木造を「素材」から都市の構造へ押し上げる
これまで都市部の木造化は、内装の木質化や低層の店舗など、目に触れる部分から進む例が多くありました。YURAKUCHO PARKの意味は、CLTを仕上げ材として飾るだけでなく、建物を支える部材として扱う点にあります。木が見えること自体より、荷重を受ける仕組みの中に国産材を組み込むことが重要です。
CLTは、木の板を繊維方向が交差するように重ねて固めた大判の板です。工場で加工して現場で組み立てやすいため、施工のばらつきを抑えやすく、躯体工事の計画も立てやすくなります。一方で、板材を大きく運ぶ輸送計画や、接合部の精度管理が必要です。木造だから簡単になるのではなく、設計と製造を早い段階で一体化する建設方式だと理解する必要があります。
防火地域で木を見せるには設計と検査の積み重ねが要る
都心の防火地域では、火災の延焼を抑えるため、木材をそのまま見せられる範囲や建物の構造に厳しい条件があります。CLTの表面を現しにする場合も、燃えしろの確保、部材の寸法、接合部の耐火性能、避難経路などを個別に検証しなければなりません。今回の計画は、木を使ったという事実より、防火と意匠を両立する設計解を都心の大規模開発で示す点に価値があります。
ただし、先行事例がそのまま横展開できるわけではありません。用途、階数、敷地条件、周囲の建物との距離で必要な対策は変わります。木材を露出させるほど、火災時の性能確認と維持管理の説明責任も重くなります。今後は完成時の見栄えだけでなく、点検方法や改修時の扱いまで含めた運用設計が評価されるでしょう。
約480立方メートルの使用量が国産材供給の実力を試す
CLTの使用量約480立方メートルは、都市の一棟開発として国産材の調達力を問う規模です。重要なのは、材料を確保できるかだけではありません。原木の産地、製材工場、CLT工場、乾燥設備、加工拠点、現場までの輸送を、工期に合わせて連続させる必要があります。どこか一つが遅れると、鉄骨やコンクリートのように代替品へ即座に切り替えにくいのが木材調達の難しさです。
逆に言えば、この規模の案件は供給網を育てる実地訓練になります。設計初期に樹種や等級を固定し、早めに工場の生産枠を押さえれば、地域材の利用を単なる理念から発注可能な条件へ変えられます。木材の使用量を増やすだけでなく、品質情報を記録し、次の案件で使える標準仕様に落とし込めるかが、業界全体への波及を決めます。
木造化の価値は炭素削減だけでなく不動産の使われ方にある
木材は成長過程で二酸化炭素を取り込み、建築後も炭素を内部に蓄えます。ただし、環境価値を強調するなら、材料の調達、加工、輸送、建物の寿命、解体後の再利用まで見なければなりません。木造にしただけで排出量が自動的に減るわけではなく、長く使い続ける計画と、交換しやすい部材設計があって初めて効果が安定します。
都心の木造開発で見落とせないのは、利用者の行動を変える可能性です。木の柱や梁が見える場所は、オフィス、店舗、広場の境界を柔らかくし、滞在時間や回遊を生みやすい。つまりCLTは構造材料であると同時に、建物の印象と収益性をつなぐ経営資産にもなります。今後は、建設費だけでなく、賃料、店舗売上、企業の採用力、地域との関係まで含めて木造の効果を測る必要があります。
ビジネスへの影響
開発会社は構想段階で材料と工場を押さえる必要がある
木造を採用する企業は、基本設計が固まってからCLTの発注先を探す方法を改めるべきです。必要な板の寸法、樹種、強度、表面の仕上がりを早期に決め、製造可能な仕様へ調整することが、工期と費用の安定につながります。特に国産スギ材は、産地や工場によって乾燥状態、寸法、加工能力が異なります。複数の供給先を候補に入れ、代替仕様と納期の余裕を契約前に確認することが重要です。
見積もりでは材料費だけでなく、耐火検証、接合金物、運搬、揚重、保管、現場の雨対策、専門職の確保まで分けて見る必要があります。木造化による二酸化炭素削減量も、算定範囲と比較対象を明示しなければ、投資家やテナントへの説明で弱点になります。
テナントと施設運営は木質空間を収益へ結び付ける
木を見せる建物は、完成写真だけで価値が決まるものではありません。共用部の照明、音の響き、清掃方法、傷や汚れの補修計画まで整えて、利用者が心地よさを実感できる状態を保つ必要があります。オフィスや店舗を誘致する際は、木質空間を企業の来客対応、従業員の交流、地域イベントにどう使えるかまで提案すると、単なる環境配慮より明確な入居理由になります。
不動産事業者は、木造の採用を広告上の一言で終わらせず、来館者数、滞在時間、共用部の利用率、入居継続率などの指標で検証するとよいでしょう。YURAKUCHO PARKのような都心事例が増えれば、木造は特殊な環境案件ではなく、用途に応じて選ぶ標準的な開発手法へ近づきます。その時に競争力を持つのは、木を使える会社ではなく、調達から運用までの不確実性を数字で管理できる会社です。