木肌色のグリッド上に格子模様が広がる抽象グラフィック。CLT市場の構造と成長を示すイメージ

REPORT 01 / MARKET OVERVIEW

市場概況:CLT生産量と木造非住宅の着工動向

CLT(直交集成板)を中核とする都市木造市場は、素材供給・建築需要・政策支援の3つの歯車が同時に回り始めたことで、2025〜2026年にかけて事業段階への移行が鮮明になっています。本レポートでは、CLT生産量の推移、木造非住宅・木造中高層建築の着工動向、政策効果の3点から市場の全体像を報告します。

CLTと都市木造市場の射程

CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)は、ひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着した大判の木質構造パネルです。厚さ90〜270mm程度、幅3m×長さ12m級のパネルが工場で製造でき、床・壁・屋根の構造材として使用できます。寸法安定性と面内剛性の高さから、従来の軸組工法では困難だった木造中高層建築を可能にする素材として、欧州を起点に世界へ普及しました。

本サイトが対象とする「都市木造化産業」は、CLT・大断面集成材・LVL(単板積層材)などのエンジニアリングウッドを用いた中大規模木造・木造ビルの設計・施工・資材供給に関わる市場全体を指します。具体的には、4階建て以上の木造・木質ハイブリッドのオフィスビルや商業施設、共同住宅、そして低層でも床面積の大きい倉庫・店舗・教育施設などの木造非住宅が含まれます。

市場の裾野は建築だけにとどまりません。川上の林業・製材業、川中のCLT・集成材工場、プレカット加工、川下の設計事務所・ゼネコン・デベロッパー、さらに金融・保険・不動産評価までを貫くバリューチェーンが、ウッドチェンジ(建築物や暮らしの中の資材を木に置き換える動き)を軸に再編されつつあると見られています。

世界に目を向けると、CLTを含むマスティンバー市場は欧州を中心に年率2桁の成長が続いていると推計されており、オーストリア・ドイツ・北欧の大手メーカーが生産量の過半を占めます。日本市場は生産規模こそ欧州に及ばないものの、耐震・防火の要求水準が世界で最も厳しい市場のひとつであり、ここで確立された設計・施工技術は国際的にも独自の価値を持つと評価されています。国内市場の観測は、グローバルな木造建築シフトの一断面としても意味を持ちます。

CLT生産量と生産能力の推移

国内のCLT生産は2016年のJAS(日本農林規格)制定と告示整備を起点に立ち上がり、2020年代前半に年間2万m³規模から段階的に拡大してきました。2025年時点の国内主要工場の合計生産能力は年間約25万m³規模に達したと見られており、実生産量も需要増にあわせて年率2桁の伸びを示していると推計されています。

国内CLT生産量の推移(推計・年間)

2020年度2.2万m³
2022年度3.4万m³
2024年度5.2万m³
2026年度7.5万m³

※公表資料等をもとにした編集部推計。2026年度は見込み値です。

生産能力に対して実生産量が下回る状態が続いてきた点は、CLT市場の構造的な特徴です。これは需要側の設計ノウハウ不足や価格差に起因するもので、稼働率の引き上げが製造事業者の収益改善とパネル価格低減の鍵になるとみられています。逆に言えば、需要が立ち上がった際に増産余力が既に存在することは、市場拡大局面での供給制約リスクを緩和する要素と評価できます。

また、九州・四国・東北など森林資源の豊富な地域に大型工場が立地し、スギを中心とした国産材活用率が高いことも国内CLT産業の特徴です。原木からラミナ、CLTパネルまでを地域内で一貫生産する体制は、林業再生と地域経済の観点からも注目されています。

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木造非住宅・木造中高層建築の着工動向

建築着工統計を業界視点で読み解くと、住宅市場が人口減少で縮小基調にある一方、木造非住宅は着実に存在感を高めています。非住宅建築における木造の床面積シェアは2020年代前半の15%前後から上昇を続け、2026年時点では19%前後に達したと見られています。特に3,000m²未満の店舗・事務所・福祉施設で木造化が進み、中大規模木造のボリュームゾーンを形成しています。

象徴的なのは4階建て以上の木造・木質ハイブリッドビルの増加です。国内の中高層木造プロジェクトは累計300件を超えたと推計され、高さ数十メートル級の木造ビルが東京・大阪・名古屋などの都市部で相次いで竣工しています。純木造だけでなく、鉄骨造やRC造と木質部材を組み合わせたハイブリッド構造が主流であり、耐火要件とコストのバランスを取りながら「見える木質化」と「構造の木質化」を両立させる設計が広がっています。

木造非住宅市場の主要セグメント(2026年時点・編集部整理)
セグメント代表用途木造化の進展度主な構造方式
低層・中規模非住宅店舗、事務所、保育・福祉施設高い在来軸組+トラス、CLTパネル
中層オフィス(4〜7階)自社ビル、テナントオフィス拡大中木質ハイブリッド、耐火集成材
中高層共同住宅賃貸マンション、社宅拡大中CLT床+RC・S造併用
大規模施設体育館、庁舎、空港施設案件依存大断面集成材、CLT屋根

需要側の主役も変化しています。従来は公共建築物が木造化を牽引してきましたが、現在は民間企業がオフィスや店舗の木造化を選択するケースが増えています。背景には、後述する脱炭素・ESG対応に加え、ウェルビーイングやブランディングの観点から木質空間の価値が再評価されていることがあります。

地域別に見ると、木造非住宅の着工は三大都市圏だけでなく地方中核都市でも増加しており、地域産材を用いた庁舎・学校・道の駅などが地方圏の需要を下支えしています。都市部の中高層案件が市場の話題性を牽引し、地方の中低層案件が量を支えるという二層構造が、現在の木造非住宅市場の姿と言えます。両者では求められる部材・構法・価格帯が異なるため、参入企業はどちらのセグメントを主戦場とするかで事業設計が大きく変わる点に留意が必要です。

政策が押し上げる需要

都市木造市場は政策主導で立ち上がった市場でもあります。2010年の公共建築物等木材利用促進法は、2021年に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称・都市の木造化推進法)へ改正され、対象が公共建築物から建築物一般に拡大しました。国と事業者が木材利用について協定を結ぶ「建築物木材利用促進協定」の締結件数も着実に積み上がっていると見られています。

さらに、2025年施行の建築基準法改正による構造規制の合理化、CLTを用いた建築物の一般的な設計法の告示化、耐火構造の大臣認定取得部材の拡充など、規制面の整備が市場の不確実性を低減させています。補助金・支援事業(詳細は法制度と支援策を参照)と併せて、政策は需要創出と参入障壁の引き下げの両面で機能しています。

国産材の需給政策も重要な文脈です。戦後に植林された人工林が主伐期を迎え、森林資源の有効活用が国家的課題となる中、CLT・中大規模木造は国産材の新たな出口として位置付けられています。木材自給率の向上目標と建築物への木材利用促進は、同じ政策パッケージの表裏と理解するのが適切です。

政策効果の定点観測として有効なのが、国の公共建築物の木造化率です。低層の公共建築物では木造化率が9割前後に達したと見られており、政策対象はすでに中高層・民間へ移っています。公共で実証された構法や部材が民間市場へ展開される「公共先行・民間追随」のパターンは、この市場の普及メカニズムの基本形であり、公共案件の仕様動向は民間市場の先行指標として読むことができます。

市場規模の推計と成長ドライバー

中大規模木造・都市木造に関連する国内市場(資材・設計・施工を含む)は、2026年時点で数千億円規模、2030年には1兆円規模へ拡大する可能性があると推計されています。成長率は建築市場全体を大きく上回る水準であり、縮小する住宅市場の代替として、ゼネコン・住宅メーカー双方が非住宅木造に経営資源を振り向ける動きが続いています。

関連市場規模(2026年推計)

数千億

資材・設計・施工の合算と見られています

2030年の市場規模シナリオ

約1兆円

政策・技術進展が続いた場合の上振れ想定

木造非住宅シェアの中期目標感

25%超

業界関係者の中期的な到達イメージ

成長ドライバーは3点に整理できます。第1に脱炭素建築への需要です。建築物のライフサイクル全体のCO2削減が求められる中、炭素を固定する木造は構造選択の有力な選択肢になっています。第2に技術の成熟です。2時間耐火部材や混構造設計法の普及により、これまで木造が参入できなかった高さ・規模のプロジェクトが設計可能になりました。第3にサプライチェーンの整備です。CLT工場の増強とプレカット網の拡充が、安定供給への信頼を高めつつあります。

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市場概況のまとめ

CLT生産能力の拡大、木造非住宅シェアの上昇、政策支援の3点が揃い、都市木造市場は「実証の時代」から「事業の時代」へ移行しつつあります。一方で、生産能力と実需のギャップ、コスト競争力、設計人材の不足といった課題も明確です。これらの論点は、技術動向コストとサプライチェーン将来展望の各レポートで掘り下げます。

市場観測の実務としては、四半期ごとの建築着工統計(木造非住宅の床面積)、CLT工場の稼働状況、補助事業の採択動向、そして大手発注者の木造化方針の4点を定点で追うことを推奨します。これらの指標が揃って上向く局面が、参入・投資のタイミングを計るうえでの重要なシグナルになると考えられます。

要点: 都市木造は政策起点の市場から、脱炭素需要と技術成熟に支えられた自律的な成長市場へ転換しつつあります。参入判断においては、生産能力の余剰を「供給の安心材料」と読むか「需要不足の兆候」と読むか、需給両面の観測が不可欠です。