CLT REPORT BLOG
木造ビル建設ラッシュが示す都市木造化の現在
東京・大阪・名古屋・福岡。主要都市のオフィス街を歩くと、外装や構造に木材を使ったビルを見かける機会が明らかに増えました。高さ数十メートル級の木質ハイブリッドビルの竣工が相次ぎ、業界では「木造ビル建設ラッシュ」という言葉も使われ始めています。本記事では、このラッシュの実態と背景、その影で進む二極化、そしてそれが示す都市木造化の現在地を、参入を検討する企業の視点で整理します。
建設ラッシュの実態:シンボル案件から量産フェーズの入口へ
国内の中高層木造・木質ハイブリッド建築は、累計で300件を超える計画・竣工が確認されていると推計されます。注目すべきは件数そのものよりも構成の変化です。数年前までは、ゼネコンや林業系企業の自社ビルなど「技術力を示すためのシンボル案件」が中心でした。現在は、賃貸オフィス、共同住宅、ホテル、物流施設といった収益不動産での採用が増え、同一の発注者が2棟目・3棟目を計画する「リピート発注」も見られるようになっています。
1棟目が実証、2棟目が改善、3棟目が標準化という流れは、新しい構法が産業に定着する際の典型的なパターンです。都市木造は今、まさにこの移行点にあると評価できます。
用途の広がりも見逃せません。オフィスに加えて、賃貸マンション、ホテル、物流施設、学校・保育施設、さらに駅舎や空港関連施設まで、木造・木質化の対象は着実に拡大しています。純木造にこだわらず、RCコアや鉄骨梁と組み合わせたハイブリッド構造で「使えるところに木を使う」という現実的なアプローチが主流になったことで、採用のハードルが大きく下がったことが背景にあります。
ラッシュを支える3つの背景
建設ラッシュの背景は3点に整理できます。
- 脱炭素需要: 建設時のCO2排出(エンボディドカーボン)への関心が高まり、炭素を固定する木造がESG経営の文脈で選ばれるようになりました。
- 技術の成熟: 2時間耐火部材の拡充とハイブリッド構造設計の普及により、都市部の防火規制下でも木造ビルが現実的な選択肢になりました。
- 制度の追い風: 都市の木造化推進法や補助事業が、掛かり増しコストの壁を引き下げています。
特に大きいのは発注者側の変化です。テナント企業が入居ビルの環境性能を選定基準に加える動きが広がり、デベロッパーにとって木質化は「コスト増」ではなく「商品力への投資」に意味が変わりつつあります。木の内装空間が執務環境の快適性やブランディングに寄与するという評価も、採用を後押ししていると見られています。制度面でも、建築基準法の合理化と補助事業の拡充が計画の実現性を高めており、3つの追い風は当面続く公算が大きいと考えられます。
ラッシュの影で進む二極化
一方で、建設ラッシュの恩恵は業界内で均等に分配されていません。耐火構法の大臣認定を持つ大手ゼネコンと、木造非住宅の設計ノウハウを持つ一部の設計事務所・住宅メーカーに案件が集中し、経験のない事業者との差が開く「二極化」が進んでいると見られています。CLTパネルや耐火部材の供給も特定工場への依存度が高く、受注環境は川上の生産能力に左右されます。
もう一つの影は人材です。木造中高層の構造設計や施工管理を担える人材は限られており、案件が増えるほど設計・監理のリードタイムが延びる傾向が指摘されています。建設ラッシュが続くかどうかは、部材の供給力だけでなく、専門人材の供給力にも懸かっていると言えます。
これから参入する企業にとって重要なのは、ラッシュの中心で競うか、ラッシュが生み出す周辺需要(部材供給、加工、設計支援、コンサルティング)を取りに行くかの見極めです。詳細は主要プレイヤーと将来展望のレポートで分析しています。
編集部の見立て:ラッシュは一過性か、構造変化か
結論から言えば、現在の木造ビル建設ラッシュは一過性のブームではなく、構造変化の初期局面と評価しています。根拠は、需要側(脱炭素・ESG)、供給側(技術・生産能力)、制度側(法改正・支援策)の3要素が同時に整った点にあります。過去の木造ブームと異なり、収益不動産としての事業モデルが成立し始めていることが決定的な違いです。エンボディドカーボンの開示・規制が本格化すれば、木造の選択は「先進的な試み」から「合理的な標準」へ変わっていくと見られます。
ただし、コスト競争力と供給網の脆弱性という課題は残っており、普及の速度はこれらの解消ペースに依存します。次回の記事では、その鍵を握る国産材サプライチェーンとCLT価格の動向を取り上げます。市場全体の数値的な把握には市場概況のレポートをご参照ください。