木造ビルの建設ラッシュ(前回記事)が続く一方、業界関係者の関心は「素材は追いつくのか、価格はどう動くのか」という川上の問題に集まっています。本記事では、国産材サプライチェーン強化の最新動向を製材・乾燥・物流の各工程から整理し、CLT価格の行方について編集部の見方を報告します。

資源はある、しかし「使える形」が足りない

日本の人工林は蓄積が増え続け、スギ・ヒノキの多くが主伐期を迎えています。資源量だけを見れば、木造ビル需要を賄って余りある水準です。問題はその先にあります。原木を建築用ラミナに変えるには、素材生産(伐採・搬出)、製材、人工乾燥、強度選別という工程が必要ですが、このうち大型の乾燥設備と強度選別ラインを備えた製材工場が全国的に不足していると見られています。

つまり国産材の課題は「山にある資源」ではなく「使える形に変える中間工程の能力」です。ウッドショック時に輸入材の代替がすぐに効かなかった要因もここにあり、川中の設備投資が供給網強化の本丸と認識されるようになりました。

川上側にも構造的な制約があります。素材生産を担う林業従事者の減少と高齢化により、原木の増産余力は地域によって大きく異なります。高性能林業機械の導入や路網整備で生産性を高める取り組みは進んでいるものの、伐採後の再造林が収益的に成立しなければ循環は続きません。供給網の強化は、製材設備だけでなく林業経営の持続性まで含めた課題として捉える必要があります。

進む供給網強化:大型化・連携・分散の3方向

2025〜2026年にかけて、供給網強化の動きは3つの方向で進んでいると見られています。

  • 大型化: 製材・集成材・CLTの一貫生産拠点への投資が続き、規模の経済によるコスト低減が進行しています。国の補助事業も設備投資を後押ししています。
  • 連携: 川下のゼネコン・デベロッパーが川上の製材事業者や森林所有者と長期供給契約や資本提携を結び、優先調達枠を確保する垂直連携が広がっています。
  • 分散: 特定工場への依存リスクを避けるため、複数産地・複数工場からの分散調達や、地域材と広域流通材の組み合わせが実務として定着しつつあります。

特に注目されるのは、大口需要家による「需要の束ね」です。複数案件の木材需要をまとめて発注することで、工場側は計画生産が可能になり、価格と納期の安定につながります。需給双方が計画を共有するこの仕組みは、住宅用プレカットで確立したモデルの非住宅版と言えます。ゼネコンやデベロッパーが年間の木造着工計画を早期に開示し、産地側が生産計画を合わせる情報連携の枠組みは、今後の供給網の標準形になる可能性があります。

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CLT価格はどこまで下がるか

CLTパネル価格は普及初期の1m³あたり15万円超から、2026年時点では11〜13万円程度まで低下してきたと見られています。業界が長く意識してきた「1m³あたり10万円未満」という普及目標水準までの距離は、もはや技術の問題ではなく稼働率の問題です。工場の生産能力に対して実生産が下回る状態が続いており、需要増による稼働率向上が固定費を薄め、価格を押し下げる最大の要因になります。

編集部では、木造非住宅の着工拡大が現在のペースで続けば、2020年代末までに主要仕様のパネルが目標水準に接近するシナリオが十分あり得ると見ています。ただし、原木価格・物流費・接着剤等の資材コストは上昇圧力を持つため、価格低下は直線的ではなく、一時的な反発を挟みながら進むと想定するのが現実的です。パネル単価だけでなく、金物・耐火被覆・輸送・揚重まで含めた構法トータルのコストで判断する視点も欠かせません。詳細な構造分析はコストとサプライチェーンのレポートをご参照ください。

事業者への示唆:調達を「設計」する時代へ

供給網の現状から導かれる実務的な示唆は明確です。第1に、木材調達は見積段階の価格比較ではなく、案件初期からの調達設計(産地・工場・数量・時期の組み立て)として扱うべき局面に入りました。第2に、価格変動リスクは契約設計(価格スライド条項、フォワード契約)で管理する対象になりつつあります。第3に、供給網への関与自体が競争力になります。川上との提携や協定締結は、調達安定化と同時にESGストーリーの構築にも寄与します。

国産材サプライチェーンの強化は、都市木造市場の成長速度を決める最も重要な変数です。供給網への投資と需要の拡大が噛み合えば、CLT価格の低下と木造ビルの普及が互いを加速する好循環が生まれます。本サイトでは、生産能力投資や価格動向の変化を今後も継続的に観測し、報告していきます。