CLT REPORT BLOG
Stora EnsoがCLT生産撤退、欧州木質建材市場に広がる需要鈍化と供給再編の波
ニュースの概要
北欧の大手製紙・林業グループStora Ensoが、スウェーデン・Gruvön工場のCLT(直交集成板)生産ラインを年内で停止すると発表した。中高層木造建築の主要資材として期待されてきたCLTだが、想定したほど市場が伸びず、原木コストの上昇も重なり採算が合わなくなったことが理由だ。同社は従業員約220人規模の拠点で最大80人に影響が及ぶとしつつ、製材事業へ経営資源を集中する方針を示した。欧州の大手が自ら需要の鈍さを認めた点で、業界の潮目を示す出来事といえる。
引用元: Stora Enso、スウェーデンのCLT生産を年内で終了へ(Stora Enso Oyj / Cision)
分析・見解
「生産能力先行」で膨らんだCLT市場の踊り場
CLT(直交集成板、板を層ごとに直交させて貼り合わせた木質パネル)は、ここ10年ほど中高層木造建築の象徴として扱われてきた。鉄骨やコンクリートに匹敵する強度を持ちながら軽く、炭素を固定する建材として行政の補助金や建築規制の緩和も後押しし、欧州各国で生産設備への投資が相次いだ。だがStora Ensoの決定は、その拡大のペースが実際の需要を上回っていたことを示している。需要そのものが消えたわけではないが、工場を増やす速さに顧客の採用が追いつかなかった、という構図だ。計画段階で描いた販売計画と、実際に建築主が木造を選ぶ速度には、想像以上の差があったとみられる。
木材コスト上昇と製材優先という経営判断
今回の撤退でもう一つ見落とせないのが、木材コストの上昇が製材(建築用の角材・板材)との資源配分競争を生んだ点だ。CLTは製材よりも多くの工程と設備投資を要するのに対し、製材は需要が安定しており投資回収も読みやすい。原木価格が上がるほど、同じ丸太をどちらに振り向けるかという判断は、手堅い製材優先に傾きやすい。Stora Ensoが「CLTをやめて製材に集中する」と明言したことは、木質建材メーカーにとって高付加価値品より既存の収益源を守る方が合理的、という判断が働いた証拠といえる。
欧州の供給再編が都市木造建築に与える波紋
Gruvön工場の閉鎖は、欧州のCLTサプライチェーンが少数の大手に集中していた構造のもろさを浮かび上がらせる。供給元が一つ減れば、残る生産者の価格決定力が強まり、設計段階でCLTを選んだプロジェクトのコストや納期に影響が及びかねない。特に都市部の中高層木造プロジェクトは資材調達の計画期間が長く、サプライヤーの事業継続性そのものが設計リスクになる。今回の件は「CLTメーカーの数が十分あるか」という調達側の問いを改めて突きつけている。
日本市場への示唆は楽観と警戒の両面
日本では中高層木造や公共建築での木質化が政策的に後押しされており、CLTへの期待はむしろ高まっている局面にある。欧州での需要鈍化は、裏を返せば国産材を使った国内生産・地域内流通のCLTには競争上のチャンスが生まれているとも読める。一方で、欧州で先行投資をしていた大手ですら採算が取れなかったという事実は、量産による価格低下を前提にした事業計画には慎重さが必要だという警鐘でもある。
ビジネスへの影響
調達担当者が見直すべきサプライヤー評価軸
今回の一件は、CLTを構造材に採用する設計者・施工者に対し、サプライヤーの事業継続性を調達条件に組み込む必要性を突きつけている。見積り時の価格だけでなく、「その工場は今後も稼働し続けるか」「代替調達先はあるか」を契約前に確認する動きが広がるはずだ。特に竣工まで数年かかる大型プロジェクトでは、着工後にサプライヤーが撤退するリスクをどう織り込むかが、設計変更や工期遅延の有無を左右する。複数拠点から調達できる体制を持つかどうかも、今後の提案評価で重視すべき項目になる。
国産材・地域内サプライチェーンへの再評価
欧州大手の縮小は、輸入CLTに依存していた日本の事業者にとって調達先を分散させる好機でもある。国産材を使った地域内生産・短い流通経路のCLTは、輸送コストや為替変動の影響を受けにくく、今回のような海外大手の経営判断に左右されない利点がある。中長期の資材調達計画を立てる企業は、価格だけでなく供給の安定性を軸にサプライヤーを比較検討する価値が高まっている。