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全面木造の高層ホテル計画が示す、都市建築の脱炭素競争の行方
ニュースの概要
オーストラリア南部アデレードの中心部で、木材を主要な構造材に使う高層のホテル・オフィス複合ビル「Hotel Optimismo」の計画が公表された。事業費は約2億1,000万豪ドルで、地上部分は道路に面した階から屋上まで、コンクリートを使わず木質構造で組む構想だという。計画を進める開発会社Finding Infinityのロス・ハーディング氏は、木を主役にした都市開発で建設分野の二酸化炭素排出を減らしたい考えを示している。見出しには「二度目の挑戦」とあり、世界一高い木造ホテルを巡る計画が同市で再び持ち上がった形だ。
引用元: 豪州アデレードで全面木造の高層ホテル・オフィス計画が浮上(Ground News)
分析・見解
木造高層ビルの競争は「高さ」から「全体の排出量」へ移っている
木造の高層ビルは、ここ十年ほどで珍しいものではなくなった。ノルウェーのミョーストーネット(約85m)や、米ミルウォーキーのアセンド(約86m)のように、80mを超える例がすでに完成している。つまり、木造で高く建てられるかどうかは、もう技術的な問いではない。
いま問われているのは、建物全体でどれだけ二酸化炭素を減らせるかだ。鉄筋コンクリートの建物では、セメントと鉄の製造が排出の大半を占める。木材は育つ間に炭素を吸収し、建物の中に蓄えておける。ただし、この効果は木材を持続可能な森林から調達した場合にしか成り立たない。計画の価値は、高さの記録よりも、排出量をどこまで開示できるかで決まる。
「コンクリートなし」の宣言が持つ意味と、残る難題
今回の構想で目を引くのは、地上部分にコンクリートを使わないという点だ。多くの木造高層ビルは、基礎や階段・エレベーター室の芯をコンクリートで作り、そこに木の床や柱を組み合わせる。これは揺れや風への強さを確保しやすいからである。
芯までも木で作るとなれば、設計の難度は大きく上がる。風で建物が揺れたときの感じ方、床の振動による音、湿気による木材の伸び縮みが主な論点になる。とくにホテルは、客室同士の音の遮断が評価に直結する。木の床は軽い分、足音が響きやすい。遮音のための重ね張りを増やせば、木材の軽さという利点が薄れる。
火災への備えは、規制の理解と保険の両面で壁になる
木造高層で最も警戒されるのは火災である。ただし、大きな断面の集成材は、表面が焦げて炭の層になると内部への燃え広がりが遅くなる。この性質を使い、燃えしろを見込んだ太さで設計するのが一般的だ。
オーストラリアでは建築基準が2022年に改正され、木造の建物を最大で高さ25m・8階程度まで認める枠組みが整えられた。それを大きく超える計画は、個別審査での承認が必要になる。審査には時間がかかり、事業の収益見通しにも響く。さらに、保険会社が木造高層の保険料をどう見積もるかも、資金調達に影響する見えにくい要素である。
二度目の挑戦という経緯が映す、構想段階の事業の難しさ
見出しにあるとおり、アデレードでは世界一高い木造ホテルの案が以前にも持ち上がっている。構想が発表されても、資金や許認可で止まる事例は世界に多い。ロンドンの木造超高層構想や、東京の木造70階建て構想も、公表から年数がたっても着工に至っていない。
構想段階の発表は、投資家や自治体の反応を探る意味合いも持つ。だからこそ、読む側は着工時期、資金の手当て、承認の進み具合という三点を見るべきである。高さの数字だけで実現性を判断するのは危うい。
ビジネスへの影響
建材の調達先を早めに押さえた企業が有利になる
木造高層の計画が増えると、大きな断面の集成材やCLT(=木の板を直交させて貼り合わせた厚い板)の需要が急に高まる。工場の生産能力には限りがあり、品質の安定した供給元は限られる。建設会社や設計事務所は、計画が確定してから探すのではなく、構想段階から供給元と話を始めたほうがよい。納期の見通しが立たないことが、最大の工程リスクになりうるからだ。
日本でも、国産材の利用拡大が政策として進んでいる。海外の事例を、国産材の販路づくりに生かす余地は大きい。
脱炭素の説明材料として、数字で語れる準備を進める
ホテルやオフィスの事業者にとって、木造は環境面の訴求力が高い。投資家やテナント企業は、建物の建築時の排出量まで問うようになっている。
ただし、環境配慮をうたうだけでは説得力が弱い。建材ごとの排出量の算定、木材の産地証明、解体後の再利用計画を、数字付きで示せるかが問われる。これを後追いで整えるより、設計の最初から記録を残す仕組みを作るほうが、手間も費用も小さくて済む。
小さく試し、評価を積み上げてから高層へ進む
高層の全面木造にいきなり挑むのは、一般の事業者には負担が重い。現実的な進め方は、低層の施設や一部の階で木造を採り入れ、遮音、振動、維持管理の実績を集めることだ。そのデータが、次の大きな案件で審査機関や保険会社を説得する材料になる。構想の華やかさに引きずられず、段階的に経験を積む姿勢が、最終的には近道になる。