ニュースの概要

米国で開かれる国際マス・ティンバー会議・展示会が、2027年大会でも投資家向け企画「The Boardroom」を開くと発表した。木造の中高層ビルを手がける開発事業者が、出資を考える投資家の前で事業計画を直接説明し、資金の集め方や事業化の見通しを話し合う場である。事業提案の募集もあわせて始まった。CLT(直交集成板)などのマス・ティンバーは、コンクリートや鉄に比べて二酸化炭素の排出を抑えやすい建材として注目を集める。しかし、事業を支える資金の出し手が見つかりにくいという課題は残ったままだ。今回の企画は、技術の話題が中心だった会議に、お金の流れをつくる役割を持たせる試みといえる。

引用元: 国際マス・ティンバー会議、2027年大会の投資家向け企画を発表(International Mass Timber Conference and Expo / EIN Presswire)

分析・見解

技術の会議が資金の商談の場へ踏み込んだ理由

マス・ティンバー(=大きな断面の木材で建てる中高層の木造建築)の業界は、ここ十年ほど技術の話題で前に進んできた。CLTの強度試験、防火の実験、接合部の設計などである。ところが、技術が整っても建物は建たない。融資をする銀行や出資する投資家が、鉄筋コンクリートと同じ物差しで事業を測れないからだ。

「The Boardroom」は、その溝を会議の場で埋めようとする仕組みである。開発事業者が投資家に事業計画を見せ、質問を受ける。展示会での名刺交換より一歩踏み込んだ、本格的な商談の入り口になる。

木造が割高に見える背景には資金側の事情がある

木造の中高層ビルは、工場で部材を作って現場で組み立てるため、工期が短くなりやすい。一方で、設計や許可の手続きに手間がかかり、初期費用が割高に見える場面も多い。実績の少なさを理由に、保険料や融資条件が厳しくなることもある。

本質的な問題は、建築費そのものよりも「前例が少なく、値付けができない」ことにある。投資家は完成後の賃料、売却価格、維持費を過去の事例から推定する。木造にはその事例が足りない。事例を増やす最短の道は、最初の数件を誰かが引き受けることであり、そのための出会いの場が欠かせない。

脱炭素の価値を収益の数字に換算できるか

木は育つ間に二酸化炭素を吸い、建物の中に炭素を長く閉じ込める。建材の製造段階の排出を減らしたい企業や、環境への配慮を掲げる入居者にとって魅力がある。ただし、その価値が賃料に上乗せされるかどうかは、市場ごとにばらつく。

投資家が見るのはここだ。環境評価の高い建物が借り手を見つけやすく、空室の期間が短くなるなら、収益は安定する。この「空室の少なさ」を数字で示せた事業から、資金が集まりやすくなる。環境価値は理念として語るのではなく、収益の安定性として語らなければ届かない。

企画の再開催を市場の成熟度を測る物差しにする

似た動きは他分野にもある。再生可能エネルギーでは、技術が成熟したあとに事業者と投資家を結ぶ場が増え、市場が一気に広がった。木造建築も、技術の発表会から資金の商談会へ軸足が移りつつある段階とみてよい。

ただし、企画が再び開かれること自体は成果の保証ではない。出資が決まった件数や、提案が着工に至った割合が公表されて初めて、仕組みの効果が見える。今後はそうした追跡の情報に注目したい。

ビジネスへの影響

開発事業者は投資家の言葉で資料を作り直す

投資家に会う前に、建築の特長ではなく、利回り、工期短縮による金利負担の軽減、空室リスクの見通しを一枚にまとめたい。たとえば工期が数か月縮まれば、借入金の利息が減り、賃料収入も早く始まる。この差額を金額で示すと、話が一気に具体的になる。

環境性能も「立派な取り組み」と述べるだけでは弱い。入居者の獲得にどう効くのか、似た物件と比べて何が違うのかを、数字と事例で語る必要がある。

投資家は中規模案件から実績を積み上げる

木造は前例が少ないため、最初から大型案件に出資すると負担が大きい。中規模の案件で、設計、施工、保険、売却までの流れを一度経験しておくと、次の判断が速くなる。複数の案件に分けて出資し、失敗の影響を散らす方法もある。

あわせて、施工会社や部材の供給元の体制も確認したい。部材の納期が遅れれば、工期短縮という最大の強みが崩れるからだ。

日本の事業者が今から準備しておきたい記録

日本でも都市木造は広がっており、公共建築物での木材利用の方針も追い風になっている。海外の会議に参加できなくても、自社の事例を数字つきで整理しておく価値は大きい。工期、費用、炭素の削減量、入居状況を記録し、次の資金調達で見せられる形にしておこう。

国内の制度面は規制・政策のページ、費用や調達の論点は費用・供給網のページで整理している。海外の投資家と接点を持つなら、英語の資料を一枚用意するだけでも入口が開く。

関連記事